|
(4)仕事に対する見方を変える
仕事そのものが一つであっても、仕事をこなしていくには、複数のやり方がある。既に述べた「仕事のやり方を工夫せよ」ということは、仕事のやり方を決めたとき、そのやり方の中で工夫するという意味であったが、「見方を変える」ということは、一つの方法でうまくいかなければ、見方を変えることにより、他の方法を考えてみよということである。
扉を開けるときでも「押して駄目なら、引いてみな」という言葉があるように、一つのやり方でうまくいかなければ、見方を変えて全く別のやり方を試してみればいい。
ある商社での話である。
頭打ちの国内での靴の販売を諦めて、未開拓地域へ拡販を計画することになった。二人の営業マンが選ばれて、現地に派遣され、販売の可能性の調査に当たった。
一人の営業マンの報告は、以下であった。
「この地域では、靴は売れません。何故なら、誰も靴など履かないからです。」
もう一人の営業マンの報告は、以下であった。
「この地域では、靴は沢山売れます。何故なら、誰も靴を履いていないからです。」
その地域で靴を履いていないという事実は、二人の営業マンにとって同じであったが、その同じ事実に対する見方が違ったために全く正反対の結論になってしまったのである。
前者の営業マンは、靴を履かない理由は、靴を履くと健康上不都合があり、靴を履かなくても生活上支障がないためであり、従って、靴は売れないと結論付けた。
一方、後者の営業マンは、靴を履かない理由は、靴を履くメリットを住民がよく理解していないためであり、そのメリットを理解させれば、靴は売れると結論付けたのである。
このように、同じ事実に対する見方を変えるだけで、結論が全く違ってしまうということがある。仕事の仕方も全く同じで、ちょっと見方を変えるとうまくいくことは往々にしてある。一つのやり方にこだわるのではなくて、いろいろなやり方を試みてみると、案外道は通じるものである。
(5)上司の立場に立って仕事を捉えてみる
与えられた仕事に対しその仕事の背景が分かると、上司がどういうつもりで仕事を指示し、この仕事でどういう結果を期待しているのか、よく見えることが多い。上司の立場立場で見えている世界が違うし、また、抱える問題意識も異なる。
仕事をする上において、上司の思考方法がわかっていれば、仕事はしやすい。だからといって、上司にそれを聞くわけにはいかず、また、上司だって教えてくれるものではない。従って、仕事を依頼されたとき、自分が上司だったら、この仕事を部下にどのように依頼するのか、どう動機付けをするのか、どういう指示の仕方をするのか、をシミュレーションしてみるとよい。自分のシミュレーションと実際に受けた指示とを比較検討すれば、上司の仕事の進め方、自分の仕事の進め方がより明瞭になってくるであろう。今後の仕事の進め方の参考になるであろう。また、これにより、仕事のやり方も変わってくるであろうし、漠然としたやり方ではなくて、もっとメリハリの付いた仕事の仕方に変わるかもしれない。
自分の目線だけから見るのではなくて、常日頃から上司の目線から、もっと広い世界での目線からものを見ていくという訓練は大切である。この訓練の目的は、より広い世界を知り、より柔軟な判断ができるような思考力を養っておくということである。そして、この訓練をしておれば、自分が上司の立場に置かれたとき、上司の振る舞いが自然に取れるに違いない。
(6)仕事のイメージを最初に作る
ルーチンワークや単純な仕事は別にして、ちょっとした複雑な仕事や、創意工夫が必要な仕事には、入念な事前の準備と仕事に対するイメージ作りが、仕事の成否を決めるといっても過言ではない。
時代劇で、戦いの前に作戦会議を行う場面がある。戦場の図面の上に各武将たちの陣地をどのようにすればよいかを検討し、敵の出方に対してどの部隊がどのように動けば、敵を叩けるかをシミュレーションする。敵の出方を読み切って、味方の動き方を検討するのである。仮に、敵の動きが事前に確度高く把握できていれば、味方の勝てる公算が高くなる。
このように、敵の動きに対して味方がどう動けばよいかをシミュレーションして、武将たちの頭脳に、知識ではなく戦いのイメージを叩き込んでいるのである。
戦場では、不測の事態が次々と発生するので、戦いの展開は作戦通りにならないことが多いが、それでも作戦会議は、必要である。行き当たりばったりの戦い方では、勝利は望めない。
仕事でも同様である。仕事の遂行に当たっての環境、条件の調査、仕事の骨格、仕事の大筋の手順、仕事の順番、その他、諸々を事前に十分検討し、各作業者の役割分担を明確にして、お互いに分担する仕事のイメージ作りをしていくことが最重要課題となる。
これまで、私はシステム開発の仕事を長年やってきたが、事前の準備を十分にして、イメージを明確に形成できたときは、うまくいった。しかし、納期に追われて、イメージ形成を疎かにして仕事を始めたときは、失敗することが多かった。イメージを明確にするためには、不確定要素を明確にする必要があり、大筋の手順も納期通りに完成させるように計画するという面があるからである。
これまでの経験では、仕事のイメージをありありと思い浮かべることができるようになれば、その仕事は8割方うまくいった。どことなくもやもやしてイメージが形成できないときは、うまくいかないことが多かった。
うまく説明できないが、イメージ化には何か強力なパワーがあるようである。
加藤雅晴氏略歴:ソフト会社役員を経て、現在は大学講師として『情報倫理学』を教える。
※4回にわたってお送りした『仕事の心構え』は、今回で終了です。
|