|
1.最高裁判決
平成12年3月、更衣時間等は労働時間であるとして賃金カットは無効とした高裁の判断を支持した判決が最高裁で出されました。(三菱重工業長崎造船所事件)
「作業着に着替える時間まで労働時間なのか」と驚かれるかも知れませんが、更衣時間は原則として従業員側の負担であり、労働時間ではありません。本来従業員は「作業に適する服装」で労務の提供をしなければ債務の本旨に従った提供とはいえないので、就業に不適当な服装で就労しようとしたとき、使用者は就労を拒否することができます。しかし、その時間が使用者の指揮監督下にあると認められる場合は労働時間になることがあります。
2.労働時間とは何か
そこで労働時間とは何かという問題ですが、労働基準法における労働時間は、以下のいずれの要件も満たす場合をいいます。
@従業員が使用者に対して労務を提供している時間であること
A使用者の指揮命令下にある時間であること
労働基準法は最低の労働条件を決めるものであり(同法第1条第2項)、@Aの要件を満たしていれば必ず労働時間として取り扱い、賃金の支払いが必要となる反面、必ずしも@Aの要件を満たしていなくても、それを会社において労働時間として取り扱う場合は、労働時間として賃金支払いの対象となります。
問題は、更衣時間や体操時間、入浴時間、清掃時間、構内歩行時間などを労働時間として取り扱わければならないのかということです。これらの問題は、性質上労働時間になるとは断定し得ない時間ですし、他方労働時間とは全く無関係ではなく、労働をするために必要な時間でもあります。一概にどちらとも決めることはできず、その会社のそれらの時間についての取り扱いが重要になります。その場合には、まさに「指揮命令下」にある時間か否かがポイントとなります。
3.裁判例の動向
裁判例を見ても、更衣時間を労働時間として取り扱うべきかという点については、判断が分かれています。
@日野自動車工業事件
労働時間ではない(東京高裁:昭和56年7月)
A石川島播磨東二工場事件
イ.労働時間ではない(第一審東京地裁:昭和52年8月)
ロ.労働時間である(控訴審東京高裁:昭和59年10月)
B住友電工大阪製作所事件
労働時間ではない(大阪地裁:昭和56年8月)
C三菱重工業長崎造船所事件(2件)
a.労働時間ではない(長崎地裁:昭和60年6月)
b.イ.労働時間である(長崎地裁:昭和62年11月)
ロ.労働時間である(控訴審福岡高裁:平成7年3月)
ハ.労働時間である(上告審最高裁:平成12年3月)
4.判断基準
では、どのような場合が労働時間となるか。具体的な判断基準は次の通りです。
@会社の命令(就業規則その他の社則または慣行)として一定の時間に所定の更衣室において使用者の指揮命令を受けて更衣することが義務づけられ拘束されており(社外での着用禁止)、かつ服装についての点検がその場で行われているような場合。
A業務の性質上、作業服に着替えて作業しなければならないもので、服装管理を使用者が行っている場合(例えば、半導体の製造従事者でクリーンルームで作業する場合の作業着、ホテルのボーイ、ガードマン、車掌等職務の識別の明白性の要請によるもの、制服の警察官、制服の消防士等身分ないし責任の明白性等からの必要性のある場合等)であって、服装の管理も使用者の労務管理の一部となっており、その管理責任が使用者にあると認められる場合で必ず使用者の支配管理下で更衣すべき義務のあるというような場合。
B一般従業員と違って、その業務の性質上特殊な服装をしなければならない場合。たとえば、熱処理現場の耐熱服、商品等の宣伝用服装をしたマネキンガール等については、その服装の着用事態が業務となり必要的な作業準備行為となるので労働時間となる。また、法令上着用が義務づけられている服装等の場合にも内容や事情によるが原則として所定時間内で行うべきにもかかわらず任意に始業前に行ったような場合を除き労働時間となる。
上記のような業務上の必要性や義務性に加えて、使用者の直接的な指揮命令下で行うという拘束性のある場合を除き、一般的に更衣時間は労働時間として取り扱わなくても差し支えなく、前記の裁判例で労働時間ではないとの判決が出されたものについても、こういった見解を取っています。
〔平成15年の会報『人事と労務』の記事より掲載〕
|
|